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「巡礼」

橋本 治
新潮社
¥ 1,470
(2009-08-28)

「いまはひとりゴミ屋敷に暮らし、周囲の住人たちの非難の目にさらされる老いた男。
戦時下に少年時代をすごし、敗戦後、豊かさに向けてひた走る日本を、
ただ生真面目に生きてきた男は、いつ、なぜ、家族も道も、失ったのか―。
その孤独な魂を鎮魂の光のなかに描きだす圧倒的長篇。」


豊崎由美氏の書評が面白かったので、軽い気持ちで読んでみましたが、
これはとてもいい小説でした。

最初は、ゴミ屋敷の周囲に住む人たちのことが書かれます。
マスコミがやってきて取材をし、野次馬が集まり、行政が動きます。
でもゴミ屋敷に住む老人は、周りの声を拒絶し、かたくなにゴミを集め続けるだけです。

ゴミ屋敷の老人は、もとは荒物屋(金物や台所用品を扱う商店)の跡取り息子でした。
近所に昔から住むお婆さんは、彼らの一家のことを思い出します。
「昔はちゃんとしてたんだけどねェ」

戦争が終わって、世の中ががらりと変わった、とか、
高度経済成長期は、どんどん社会が変化した、とか、
よく聞く言葉ですが、では具体的にどういうことがあったのか?というのは、
後の時代に生まれた私たちにはよくわかりません。
この小説では、その時代の庶民の生活や考え方の変化が、事細かに描写されます。
その細かい描写が、この小説の魅力です。
時代を追って読みすすめるうちに、「世の中が変わった」というのは、
庶民にとってどういうことだったのか、
それが私にも少しわかった気がしました。
そして、なんとなくゴミ屋敷の老人に、同情にも似た哀しみを覚えました。

ただ真面目に生きていたはずなのに、ゴミ屋敷の住人となってしまった老人の
最初に集めた「ゴミ」が何だったのか。彼を救うものはあるのか。

淡々としているけれど、とても心に残る小説でした。

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